PTAと言えば皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか? 「面倒くさい」「押し付けられて困る」といったネガティブな印象を持っている人も、残念ながら多いかもしれません。
しかし、PTAの加入は義務ではなく「任意」だという話を耳にすることがあります。真相を調べてみました。
PTA実は任意加入
そもそもPTAとは「Parent Teacher Association、父母と先生の会」の略で、保護者と教師が協力して学校運営に携わり、子どもにより良い教育環境を整えるために立ち上がった団体です。「社会教育関係団体」の一つに位置付けられます。
「社会教育関係団体」の定義は、社会教育法第三章第十条で次のように規定されています。
この法律で「社会教育関係団体」とは、法人であると否とを問わず、公の支配に属しない団体で社会教育に関する事業を行うことを主たる目的とするものをいう。
PTAはあくまで任意団体であり、加入義務などを明示した法律などはありません。その意味で、任意加入であると言えます。
PTAの加入が強制かどうかについては、2016年に熊本地方裁判所で判決のあった裁判で争われたことも記憶に新しいところです。裁判自体は、保護者がPTAに対して加入費用の返還を求めて争ったもので、最終的には福岡高等裁判所で和解に至りました。
ここで重要なのは、熊本地方裁判所が判決の中で「前提となる事実」としてPTAを「入退会自由の任意加入団体である」と認めた点です。判例を見ても、PTAが任意団体であることは間違いないと言えるでしょう。
任意とは言いながらも……PTA運用の実態
しかしながら、PTAの現場での運用のあり方は、必ずしも「任意団体」であることを前提としたものにはなっていないケースもあります。
もしかしたら、「任意であることを知らずに加入した」という人もいるかもしれません。また「退会が認められなかった」、「無理やり役員に任命されてしまった」といった話を聞くこともあります。
このような場合、法律的に問題はないのでしょうか?
1:PTAが任意であることを知らずに加入した場合
「任意であることを知らなかった」「強制だと言われて加入した」——。こういった場合には、加入自体が無効になる可能性があります。
まず任意であることを知らなかった、強制だと勘違いしていた(これを法律的には「錯誤」と言います)といったケースでは、PTAへの加入(という契約)が無効になる可能性があります。
契約については2017年に改正された民法第95条にこのように規定されています。
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができます。
(1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤
(2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
ここで特に重要なのが(2)です。簡単に言うと、契約に関して真実とは違う情報などに基づいてなされた契約(PTA加入)は取り消すことができるということです。
但し、(2)の取消の場合、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる」(同法95条2項)と規定されています。
つまり、例えば保護者側が「強制加入ということなら、入会します。」ということを伝えた上で入会したような場合は、PTA入会の無効取消を主張できる、ということです。
また、民法第95条3項で「錯誤が表意者(=入会の意思表示をした人)の重大な過失によるものであった場合には次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない」とあるように、加入側に「重大な過失(ミス)」があった場合にはその限りではありません。
例えば、任意加入であると説明を受けていたにも関わらず、それを不注意で聞いていなかった、といった場合がこれ(=意思表示の取消しができない)に該当するでしょう。
また加入にあたって、PTAは強制だと説明されたなどの場合には、民法96条の「詐欺」により、加入取消を主張されるケースもあり、さらに悪質な場合、PTAが刑事法上の詐欺罪を問われるケースも考えられますから、PTA側も説明には十分な配慮が必要です。
2:PTAの退会が認められなかった
上の判例でも見た通り、PTAは入会と同様、退会も自由な任意団体です。したがって、退会を不当に認めなかったり、退会の自由がないと偽ったりすることは違法な行為に該当する可能性があります。
3:無理やりPTAの役員に任命された
一般的に、PTAに加入することと、役員に任命されることは別物です。PTAに入ったからといって、必ずしも役員になることに同意したことにはなりません。
また、逆にPTA非加入の保護者がPTA役員に就くことについても、特に法的な規制はないようです。
仮に入会にあたり、役員の拝命などを義務付ける書類へのサインなどをしていた場合は別ですが、そうでない限り、基本的に役員の任命も拝命も、強制することはあってはなりません。
また、その様な書類へのサインがあったとしても、いざ役員を任命するに際して本人の意思に反して役員に任ずることは問題があり、そのような合意も、民法上の錯誤、詐欺、強迫などを理由にPTA入会取消を主張される可能性もあります。
このように、PTAは任意参加が原則です。しかし加入を強制する空気が根強く残っているがために、「PTA予算で購入した卒業記念品などを、PTAに加入していない家庭の子供に渡さない」といったケースもあるそうです。こちらの記事(大塚玲子氏による)に詳しいですが、基本的に「学校の子どもたちに配る記念品」を用意するのであれば、入会の可否に関わらず配るのが当たり前ではないでしょうか。こうした議論も、強制加入の風習の名残と言えるでしょう。
とはいえ、万が一PTA非加入家庭の子どもたちの記念品を購入しなかったからといって、違法とまでは言えないかもしれません。しかし、そのような対応が差別やいじめを助長してしまったり、非加入家庭からのクレームにつながる可能性もあります。その辺りはあくまで各PTAの判断に委ねられています。だからこそ、PTAが誰のための、何のための組織なのかをよく考えたうえで、判断されることをお勧めします。
PTAの入会届や退会届、非加入届等、法律的に正しい作り方は?
では、お互いに気持ちよくPTA活動を続けていくために、入会届などの書類はどのように作るべきなのでしょうか?
PTAにおける統一の書式は存在しませんが、一般的には以下のひな形のような書類を使うケースが多いのではないでしょうか。
冒頭お伝えした通り、PTAはあくまで任意団体であり、加入義務などを明示した法律などはありません。にもかかわらず、ここまで詳細に法的な部分までをお伝えするのは、大げさだと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし例年、年明けから春先にかけて、PTAに関する不安や不満の声がSNSなどに溢れるのも事実です。
PTA’S(ピータス)のミッションは、「PTA を効率化し、就労の有無や父親母親に関係なく、誰もが子どものために無理なく参加できる PTA の実現」です。そのためには、PTA会員を募る側も、PTA加入を検討する側も、双方が気持ちよく運営、参加するための正しい知識や情報が必要だと思い、あえて詳細を調べて発信しています。
さまざまな判断をする際の材料として、ぜひ参考にしていただけましたら幸いです。
「入会届/非入会届/退会届」ひな形と
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※上記ひな形は、入会届/非入会届/退会届としての法的な効力を保証するものではありません。これを利用したことによるトラブルについては、当サイトで責任を負いかねますので、各PTAの責任のもとご利用ください。
2021年4月7日掲載
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※尚本解答は、弁護士からのアドバイスに基づいて作成しています。
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